暗雲

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どうしたら伝わるのだろう? 考えても…… いくら考えても、この気持ちを伝えるのに最適な言葉が浮かばず… ただ黙るしかなかった。 好きだけでは足りない。 愛してるだけでは伝わらない。 口先だけでこの場は納得させたとしても、何も変わらない。 「私、自分の事ばかり……ごめんなさい」 不意に感じた温もりに驚いた。 俺は…… 杏に抱き締められていた。 「亮の気持ちが信じられないんじゃない……自信が無いの。亮にずっと好きでいて貰える自信が無い。 こんな私だから、いつか亮が私に嫌気がさしてしまうんじゃないかって……」 ゆっくりと話す杏の言葉は優しく俺を包み、苛立ちも虚しさもたちまち溶かしてしまった。 単純な男だ。 触れあって、杏の温もりを感じるだけで安心する。 杏の言動に一喜一憂を繰り返し、冷静な対応なんて出来やしない。 それは杏も同じなのかもしれない。 いや同じであって欲しい。
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