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『はぁ』
携帯を握り締めて、わたしは何度目かのため息を吐き出した。
エリの励ましに、すっかりその気になって健志と話をしてみようとは思ったのだが……
健志に避けられるようになってからは、こちらから電話する勇気も無くて、暫く彼には会ってない。会わない時間が増える程、気まずさは増していく一方で……
今夜、話がしたいというシンプルな用件でさえ電話出来ずに悩んでいた。
彼の事になると、今迄の経験などはすべて役に立たない。恋愛初心者のように戸惑っていた。
『はぁ』
ため息は空気に溶けて消えていく。ドキドキする心臓の音を聞きながら、やっと決心したわたしは通話ボタンをゆっくりと押した。
お願いだから会って……
「もしもし」
携帯から零れる声は彼の不機嫌さを告げる。早くも逃げ出したい衝動に駆られるが、彼に会いたい気持ちがわたしの背中を押す。
「……話があるの。今夜時間空いてる?」
「話?」
考えているのだろう。沈黙に彼の乗り気の無さを感じたが、わたしはじっと待った。
「……いいよ」
「本当?じゃあ仕事が終わったら、いつもの店に行くから」
「分かった」
健志の声が浮かないままだったのが気になるが……約束を取り付けた事で、わたしは有頂天になっていた。
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