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こういう日は、憂さ晴らしに誰かの温もりが無性に欲しくなる。
一夜限りの温もりを求めている者は、俺以外にも夜のネオンの中には沢山溢れていた。
定期的にやってくる病的な喪失感は……
人の温もりでしか埋められない。
誰でもいいんだ。
相手は誰でも。
会社から特に当ても無くただフラフラと歩いていた俺は、携帯が震えているのに気が付いた。
画面を見ると、そこには兄貴の名前。
面倒臭い。
どうせいつもの呼び出しだ。
俺は舌打ちしながら、通話ボタンを押した。
無視出来るのならそうしたいが、今夜の俺は独りでは居られそうにはない。
兄貴の誘いは面倒ではあったが、その後に得る温もりは魅力的だった。
「亮?今何処に居る?」
兄貴の声の向こう側に聞こえる喧騒が、いつもの呼び出しだと俺に知らせてくれる。
「会社から出たばかりだ。何処へ行けばいいんだ?」
「いつもの場所!」
兄貴はそれだけを告げると、通話は一方的に遮断された。
いつもの場所か。
俺は煙草に火を着け、歩き出した。
どうやら今夜は、隙間を埋める温もりにはありつけそうだ。
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