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今まで欲しくてどうしようもない!という感情は経験した事は有ったが……これ程迄に、激しく俺の心を捕らえた人は居なかった。
…………でも
これは無いよな。
俺は無表情で煙草を取り出した。そこに居るすべての人達に全く興味が無いと装い、さりげなく火を点ける。
兄貴やその人に、動揺しているのを悟られないようにするのが精一杯だった。
「亮、今日は気に入った子いたか?」
耳元で囁く兄貴の声が煩わしい。あの人の低くて甘い声が、兄貴の声で消えてしまう事に無性に腹が立ってきた。
「無い!」
一言だけそう返すと、兄貴は諦めたように仲間達との会話に戻った。
特定の彼女を作ろうとせずに、その場限りで相手を変える俺を心配しての誘いなのは分かっている。兄貴なりの気遣いなんだろうが……
今日は完全に、お節介だな。
先程の不可思議な衝撃は消えかけてはいたが、高揚感はまだ残っている。
俺の視線は、無意識にその人を捕らえていた。
外国人かと思える程の顔立ちに、日焼けした小麦色の肌、少し茶色がかった目……完璧過ぎる容姿はもはや嫉妬を覚えるくらいだった。
行き着く先がこことは……俺は欲望で遂におかしくなったのか?
勘違いだ、気のせいだと自分に言い聞かせ、俺はウィスキーを水のように胃袋へと流し込んでいた。
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