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このままこの態勢で、あの人をやり過ごす事は不可能だよな……
諦めた俺は、悪あがきだがもう一度だけ顔を洗い、ハンカチで顔を拭いた。
振り返る勇気はまだ無い。
だが……ここから早く逃げなければ!
関わってはいけない!俺の中では、煩いくらいに警報が鳴り響いていた。
この人は俺の大切な何かを目茶苦茶に壊してしまう……
意を決して俺は振り返る。壁にもたれながら、その人はじっと俺を見つめていた。
全てを見透かすような強い眼差しは……恐怖すら覚える。
その視線から逃れたくて、俺は扉のノブに手を掛けた。
その瞬間……
この場から逃げる事は許され無いと言うかのように、その手は押さえ付けられた。
「逃がさないよ」
微笑みを浮かべてそう言ったあの人は……俺には悪魔に見えた。
「ずっと俺の事見てただろ?気付かないとでも思ってたのか?」
甘ったるいその声とは裏腹に、冷たく投げ掛けられた言葉達は、俺の動きを停止させた。
「健志さん……勘弁して下さい……」
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