第六話

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その日を境に、金縛りは毎晩となった。 仏間をウロウロと歩き回り、時には添い寝までしてくる“それ”。 やってくるとまず、絨毯の下の畳がきしむ。まぎれもなく、人が歩く時の音であった。 私の背中にぴったりとくっつき、並んで寝ている“それ”の息遣いを後頭部に感じた。 間近に向かい合って寝ているときもあり、私は必死に目を閉じていた。 心の中で読経していたら、顔を殴られたような不思議な衝撃を受けたこともある。 夏になっても、全身に何かを被っていないと眠れなくなった。 すると時折、布団の端がふわりと持ち上がり、ぱたりと落ちることがあった。 すっと体が持ち上がるような、浮遊感を感じることもある。 精神の限界。 親に相談したが、寝所を移してはもらえなかった。 ただ、横で聞いていた姉が蒼ざめた顔で私に言った。 『それ、2時14分じゃない?』 仏間の隣の個室にいた姉も、怪現象に毎晩悩まされているのだという。 それは足首を掴んだり、首に手をかけたりするらしい。 掴まれた感触は、朝になっても生々しく残っている。 それが居なくなった後で時計を見ると、いつも2時14分を差していたのだそうだ。 母と祖母はますます険悪になり、私たち家族は2年足らずで家を出た。 祖母は10年後に他界するまで、あの家で暮らしていた。 たった一人、10年もあの場所で。 姉は言っていた。“それ”は姉の部屋を通り、仏間のほうへ行っていたと。 そして姉の部屋と仏間の延長上、そこには祖母の部屋があった。
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