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その日を境に、金縛りは毎晩となった。
仏間をウロウロと歩き回り、時には添い寝までしてくる“それ”。
やってくるとまず、絨毯の下の畳がきしむ。まぎれもなく、人が歩く時の音であった。
私の背中にぴったりとくっつき、並んで寝ている“それ”の息遣いを後頭部に感じた。
間近に向かい合って寝ているときもあり、私は必死に目を閉じていた。
心の中で読経していたら、顔を殴られたような不思議な衝撃を受けたこともある。
夏になっても、全身に何かを被っていないと眠れなくなった。
すると時折、布団の端がふわりと持ち上がり、ぱたりと落ちることがあった。
すっと体が持ち上がるような、浮遊感を感じることもある。
精神の限界。
親に相談したが、寝所を移してはもらえなかった。
ただ、横で聞いていた姉が蒼ざめた顔で私に言った。
『それ、2時14分じゃない?』
仏間の隣の個室にいた姉も、怪現象に毎晩悩まされているのだという。
それは足首を掴んだり、首に手をかけたりするらしい。
掴まれた感触は、朝になっても生々しく残っている。
それが居なくなった後で時計を見ると、いつも2時14分を差していたのだそうだ。
母と祖母はますます険悪になり、私たち家族は2年足らずで家を出た。
祖母は10年後に他界するまで、あの家で暮らしていた。
たった一人、10年もあの場所で。
姉は言っていた。“それ”は姉の部屋を通り、仏間のほうへ行っていたと。
そして姉の部屋と仏間の延長上、そこには祖母の部屋があった。
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