第十九話

4/7
前へ
/118ページ
次へ
また数日経って、旅行に一緒に言った一人から、電話があった。声は掠れ、まるで一気に老人になったようだった。 どうしたのかと慌てて聞くと、自分のところにも電話が掛かって来たという。一瞬なんのことかと思ったが、 すぐに、旅行中死んだやつが出た電話に思い当たった。掛かって来た電話の内容を注意して聞くと、 6つのことがわかった。おそらくはショック死の発端は電話にあること、自分にもその電話が掛かって来たこと、 自分は恐ろしさのあまりに電話を切ってしまったこと、そしてそのせいで自分も死ぬであろうということと、 きっとお前にも電話は来るだろうということ、そして早送りの様な『キュルキュル』に鍵があるであろうこと。 彼は怖い話が好きで、夏にもなればいつも話していた。だからそこまで思い至ったのだろう。 それを聴いた男も、いつもなら笑い飛ばすところだったが、人の死と、数日でしゃがれた声、 そのふたつの現実を前にすっかり信じた。しかし、それを信じるなら彼は死んでしまう。彼の元へ行くというが、 彼は老人のような声で、どうせ助からないから、お前は電話に出られる準備をしておけ、と言った。 それでも男は言うことを聞こうとしないが、彼は、『キュルキュル』を最後まで聞いて、 そしてまたあの世で会うことがあったら土産に聞かせてくれ、と言った。そう言われて、その男は従った。 彼がどうしても助からないことを、なんとなくではあるが感じ、また、正直に言うと男も命が惜しかった。 そうして、家でじっと過ごした。次の日の夜には彼が死んだと親から携帯にメールがあった。 交通事故だったようで、見ていた人の話では、道のずっと向こうから走ってきて道路に飛び出し、撥ねられたそうだった。 近く葬式をするから来てほしいという内容で閉め括られていた。男はしばらく画面をじっと見続けていた。 電話が掛かって来た。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1441人が本棚に入れています
本棚に追加