第二十話

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「呼ばれる」 わたしが大学生のころ、わたしの家には名前を呼ぶ何かがいた。 友達が遊びに来たとき、居間でもてなしながらわたしは居間から扉を三つほど隔てた離れたトイレで用を足していた。 恥ずかしながらトイレのドアを開けて用を足していたら、 バン バン と扉が開き、トタトタトタトタと足音が近づきながら、友達の特徴のあるイントネーションでわたしの名前を呼ぶ声がした。 トイレの扉とその部屋に入るための扉も開いていたので、「いまトイレ、どうかした?」と大きな声で聞いたけれど、足音はトタトタトタトタと近づいて開けたトイレの扉の手前で立ち止まった。 待たせていると思い急いで水を流して、「まった?」と顔を出すと、誰もいない。 「え?」とバンと開いた扉のほうを見ると、扉は開いていなかった。 扉が開く音は一度だけ。閉じる音はなかった。 居間にいる友達にさっき来たかと尋ねたら、ずっとここにいたという。 わたしの家にいる名前を呼ぶ何かは今もいる。
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