第二十一話

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何してるのかしら― 帰宅中、土砂降りの街道を車で北上していた吉田さんの目に飛び込んで来た男はどこか異様だった。 午後11時頃。小学校付近小学校付近の交差点。 30歳前後で長身、痩せ型。煙草でも買いに出てきたようなラフな格好で、傘を差さずにガードレールの傍らにじっと立って足元を見つめている。 何を見つめているのか気になり、吉田さんは首を伸ばす。そこには干からびた花束が置いてあった。 知り合いでも亡くしたのかしら― その時、男が不意に顔を上げ、目が合った。てっきり哀しみに暮れていると思っていたその目は何故かギラギラと輝いていた。 やだ― 吉田さんは睨まれたと思って目をそらした。だが、視界の端で男が何かをしている。 男は干からびた花束を拾い上げるとそれを持ったまま歩きはじめた。 どうする気?― そのまま男は去った。吉田さんは訳が分からなかったがそのまま帰宅し、彼の事はすぐに忘れた。 しかし次の朝、車に乗り込んだ時、ふと彼を思い出した。車体が昨日の雨で濡れていたからだ。 嫌な予感がした。しかし彼女は車を発進させるしかなかった。と、その時。 バリッ… タイヤの下で何かが砕ける音がした。普段なら意識しない小さなものだが、彼女は車を停めていた。 何これ― 前輪の下には干からびたあの花束があった。 その時、それが自分への花束になることなど吉田さんは思いもしなかった。
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