自由

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「このイクラは貴女、ウニは赤沼、卵は病院としましょうか」 「・・・ああ」 「まず、赤沼は逮捕され、動揺するのは病院です。主人を亡くした犬同然となります。そして、貴女も似たような立場になりますが、また違います。伊緒理さんは赤沼の娘です。立場上貴女が上となります」 「・・・・」 「そして、病院は悩みます。貴女をどうするか。主人がいなくなってしまった以上、少なからず自由が取り戻せる。・・・その自由が、貴女を食うか食わないか。しかし、彼らは臆病で貴女を食べずにいました。もし、赤沼が生きて戻ってきたら・・・」  卵の寿司を一貫とり、パクリと食べる。 「食われます、赤沼に。だから、一度待ったのです」 「・・・母が生きていれば私は生かされ、母が死ねば私は食われるって話?」  淡々とした無感情な表情。伊緒理がどんな心境なのか、わかりにくかった。  しかし、少なからずショックは受けているはずだろうと、公久は思った。 「・・・しかし、5年前。赤沼の死刑が確定し、赤沼は確実に死ぬ立場となりました。それは伊緒理さん、貴女も同じでした。赤沼が死ねば、心おきなく貴女を食すことができます。・・・カニバリズムの連中からして見れば、貴女は病弱ながらも美しい。まさに食してみたい人間なんです。どれほど、待ち焦がれていたのでしょうね。赤沼が死に、貴女を食べるのを・・・」  公久はウニを食べ、イクラを食べずに伊緒理の方へ渡した。 「・・・・でも、間宮は」 「あの女は、病院の命令に背いて、勝手に貴女を食べようとしたのでしょうね」 「・・・・・・・いや、もう一つ」 「?」 「ショクシュ、って、なに?」  ショクシュ。  ・・・食種のことか。
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