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11月19日。プチ・ピンチ
ふわり、とあくびをして大きな窓を開けてみたものの、いつものような太陽の光は入り込んでこなかった。
曇っている。
店では閑古鳥が鳴いているだろうか。
今日はスナが仕事に行っている。
あんなんでも週5で店を任せているものだから、いつの間にか結構頼りにしていた。
社員ミーティングにしても、いきなりサボる俺の代わりを奴が務めていることもある。
そう、週に一度本部から社員が視察に来るのだが、これが面倒で仕方がない。
俗にSV(スーパーバイザー)というやつだ。
俺の方針はどうやら常に本部様と逆を行くらしく、SVはいつも渋い顔で、そんなだとじきに淘汰されますよ、なんて言うのである。
しばしば俺とSVの板挟みになっているスナに言って聞かせたっけ。
俺としてはそこそこのんびりとやっていければいいわけで、常に売り上げ一位なんて求めてはいないんだよ、と。
奴はおおむね俺の意見に賛成したようで、店からかっぱらってきた「プチプチ」をご丁寧にひとつずつ潰しながら話を聞いてくれていた。
…はずだ。
そういえば、∞プチプチを買ってやる約束をしていたんだった。
思い出したところで着信が来た。
I LOVE YOU のオルゴールバージョン。
奴御用達のサイトから引っ張ってきたものだ。
癒し系の音色で嫌いじゃない。
「はい、どうした?」
「あや、おーおーか!
なあ、料金収納したはずが払えてないっていうお客さん、きてんだけど!?」
「なんだそりゃ、意味わかんねえな」
「おばーさんだけどキレぎみ!
はやく、できれば…きてほしい…けど」
「おう、目覚めてたし行くわ。
5分くらい待ってもらってて」
内容はオルゴールとは無縁の、緊急呼び出しが多いのがちょっとあれなのだが。
でもそれがこの仕事の宿命だから仕方ない。
さあ、行くか。
気が重いけど。
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