ムゲン の カケラ 2

6/6
172人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
「俺は、じいさんが好きだった。尊敬して、感謝していた」 火事で自分以外の家族を失った俺に、人の温もりと日々の大切さを教えてくれた人。 「じいさんみたいになりたかった。じいさんの為に、この店を継ごうと思った」 だけどさ。 一矢さんが笑う。泣くように、笑う。 俺に『昔雨』の瓶詰めは作れなかった。   いつまでもいつまでも、降り注ぐ、灰。   「結局、俺は『模倣』にもなれなかったんだ」 どこまでもどこまでも、降り止むことは、ない。 僕はピザを食べる手を休めることなく。 「一矢さんは、一矢さんだから」 いい加減で、自分勝手で、子供で。 そのくせ、大人で。 「じいさんの『模倣』なんて、似合いません」 「…お前もな」 僕?  「お前は『模倣』じゃない。自然に似てきているのなら…俺は、怖い」 一矢さんの眼は真剣だった。茶化すことなど出来ないほど。 「じいさんが、言っていたんだ。  『自分ほど過去に縛られた人間はいない』と」 ピザを食べる僕の手は、止まった。 「リュウ」一矢さんの声はどこまでも優しい。 「どうか、忘れないでくれ。お前は、お前だ。何があっても、『隆登』なんだ」 僕よりもじいさんと長く過ごした、一矢さん。 僕の知らない、じいさんの姿を知っている人の言葉。 「僕は僕です。わかっていますよ」安心させようと向けた笑顔。「でも」 あなたは、何を心配しているのですか? 僕の問いかけは声にならなかった。 下から大急ぎで駆け上がってくる足音に、気を取られてしまったから。 「隆登さま! 吉之助さまが、スゴイ状態でお戻りになられましたっ!」 思わず、一矢さんと顔を見合わせ、どちらともなく吹き出した。 「ほんっとうに、相変わらず、学習能力ないよなー、吉之助さんは」 「一矢さんとよく似てます」 「あー、それは、間違っている!」 今日も、いつもの儀式が始まる。 いつもの叫びと共に。 「るーとノ鬼―っ!」 そして、響く、洗濯機の回る音。 空は、晴れ。                            [fin]
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!