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『昔雨』が降り止んで、吉之助さんも帰ってきて。
注文も順調、発送も順調、入金も順調。
これで、またしばらくは食いっぱぐれることもない。
「じゃ、俺もそろそろ出かけるかな」
一矢さんは、朝のコーヒーを飲みながら、店の窓辺から空を見上げていた。
「吉之助さんの説教も済んだことですしね」
「言うな」
がっくしと肩を落とす後ろ姿は、生気ゼロ。
「ワシ、マダ、言イ足リナイケド、ネー」
いつの間にやら現れた吉之助さんが、そのままピタリと一矢さんの背中に張り付いた。
「三日連続夜中に起こされて、延々とお小言状態だってのに、まだ言い足りないのかよ」
「年寄リノ説教ハ長イノダ」
吉之助さんは、楽しそうにウフフーン、と鼻を鳴らす。
普段、年寄り扱いしたら、怒るくせに。
「るーと、何カ、言イタソウダネー」
看板黒猫ぬいぐるみロボットの黒い瞳が、きらりんと僕に向けられた。
「いいえ。何も」
僕まで説教の対象にされては、たまったものではありません。
「ソレニ」さらに、吉之助さんは嬉しそうに「由良モ、会イタガッテイル、ト、思ウゾ」
一矢さんの顔が強張った。
「由良母さまは、お元気ですか?」
アラガネは、無邪気に僕に問いかける。
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