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それからの私は、暇さえあれば「ミシュラン」に顔を出すようになった。
目立たないカウンターの一番左端の席が私の指定席。
仕事をおろそかにはしていないし、社内の評価も悪くない。それが私により時間を与え、彼と過ごす楽しみを与えてくれた。
「それじゃあ今度の日曜日は休みを取って一緒に映画を見に行ってくださるんですね!?」
『えぇ、映画なんて久しく見ていませんからね、楽しみで仕方ありませんよ。』
「やったぁ!超嬉しい!」
『あはは、また大袈裟ですね。僕なんかが同行して喜んで頂けるなんて恐縮ですね。』
何言ってんだろうと思った。彼だからこそ私は楽しみで嬉しくて、それだけで視界は全て薔薇色に生まれ変わるのだ。
「ねぇねぇ、その日映画見た後はやっぱりここでご飯ご馳走してくれるんでしょ?」
『えぇー?久々の休日にまで僕を働かせるんですか?』
「じ、じゃあ良いわよ。別に本気で言った訳じゃないし。」
『あはは、わがままな方ですね。まるで貴族のようだ。僕はそんな貴方が好きなんですがね。』
「………!!」
ドキッとした。こういう事をさらりと言ってのけるからこの男は信用ならない。
自分が恋心を抱かれている事、本気で気づいていないのだろうか。
それとも、この程度の言葉で舞い上がる私の方が程度が知れているのだろうか。
「とにかく、じゃあ当日は12時に駅前で待ち合わせで良いわよね?」
『はい、問題ありません。楽しみにしていますね。』
もう、楽しみにしているのはこっちなのに。
【BGM Eyes On Me...アンジェラ・アキ】
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