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「何なのよ、もう…。」
彼が店に帰ってくる迄にそう時間はかからなかった。
『すみません!大変お待たせいたしました!あの…これ…。』
彼の両手には抱えきれないほどの綺麗な蒼い薔薇の花束があった。
『あの…来週誕生日でしたよね…?少し早いのですが、お誕生日をお祝いしようと思いまして…。』
涙が溢れてきた。
ここ近年、私の誕生日を祝ってくれる異性がいただろうか。
三年前は、彼氏と連絡が取れない状態で1人で過ごした。
一昨年は、真希と2人で飲みに行った。
去年も、そう、真希と2人だった。
今年はもう、1人だと思ってた。
それが、当日ではないにしろこんな形で祝ってくれる人がいたなんて。
「あのね、私今まで誕生日を祝ってくれた人なんて本当に少ないの。会社の人達は勿論、学生の頃もあんまり明るい子じゃなかったから。子供の頃だって、両親が冷たくて、お誕生日会はおろか、まともに誕生日を祝ってくれた事もなかったの。」
『………辛い環境で育たれたんですね。』
「だから正直、自分の誕生日なんて、当日カレンダーを見て思い出すくらいで。ここ二年間は真希がいてくれたけどね。」
『それなら、これからは僕と毎年お祝いしましょう。』
「………えっ?それってどういう意味?」
彼は少しはにかみながら、いかにも慣れていなさそうに目を泳がせながら答えた。
『ですから…その…。僕を異性として見て頂いてですね…。』
「ふふっ。」
私はつい笑ってしまった。彼の不器用さに笑ったのかもしれない、今が幸せすぎて笑ったのかもしれない、でも、そんな事は正直どっちでも良かったの。
だって、どちらが理由だったとしても、彼が存在しなければどちらの理由も成り立たないのだから。
どうして笑ったの?と聞かれればそれは、「彼がいるから」が答えなのだ。
「私ね、誠さんの事、だぁーい好き!!」
彼の胸に飛び込むと、彼はポリポリ頭を書きながら呆然と腕を垂らしていた。
「こういう時は『僕も大好きですよ。』って抱きしめるの!」
『…あはは、僕も香織さんが大好きですよ。』
その夜は彼の家にお泊まりした。
【BGM stay with me...倖田來未】
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