-しづ心なく-

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「ねぇねぇ誠さん。」 『はい?何でしょう?』 「何で何もしないの?」 彼の行動はまさしく紳士という他ならなかった。前回ご飯を食べに来たときもそうだけど…(あの時何かされてたら怒ってたけど。)性欲全くないんじゃないのってくらい彼は何もしない。 『…最初に女性に免疫がない事は申し上げましたでしょうに。それに、僕はもっとゆっくり貴方を大事にしていきたいんです。』 「………。」 『な、何ですか?』 「あーもうその一言だけでもう超好印象!!やっぱり誠さんは他のちゃらーい男とは違うねっ!!」 『まぁ…歳も歳ですからね。』 彼は照れながら鼻の頭をかいていた。彼のよくやる癖、照れると体のどこかしらをかく。 大抵頭か鼻だけど、分かりやすい。 「付き合ってるんだから別に良いのにー。」 『そういう事はもう少し一呼吸おいてからにしましょう。』 その夜は彼の腕枕で眠りについた。朝を迎えるまでに何度かついと目を覚ます、その度に彼も気付いて目を覚ます。 目を覚ました彼は眠そうにしながら、私の頭をポンポンと撫でてくれる。 幸せをこんなに持続して感じているのは三年ぶりだ。あの頃は、幸せを感じる余裕なんかもうなかった。 ただただ元彼と別れたくなくて、潔くない女だって分かっていた。彼が避け始めているのも分かっていた。 それでも、好きだったから追い求めた。 結局何も残らなくなった。残ったのは…後悔と疑問だけ。 そして夜明け。 『昨晩昔の彼の事を考えていたのですか?』 「……すごーい!!どうして分かっちゃうの?でも、そんな良い思い出とかじゃない。あの頃の自分を思い出してちょっと考えてただけ。」 『それも分かっていますよ。貴方の事が好きですからね。』 私は生涯この人についていこうと思った。 余裕がなかった。うん、確かにそう。 でも、それ以外にもちゃんとそれくらい私は彼を想っていた。 『では、いってらっしゃいませ。頑張ってくださいね。』 彼に見送られて私は会社へ向かった。 【BGM 赤い糸...コブクロ】
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