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『へぇー。そんな事があったんだ。』
飄々とした態度で真希が言う。
「もう、それ聞いた時さ、私やっちゃったって思ったよね。もうあのお店行けないなぁ…。」
『そんな事ないよ、だって新藤さんだって香織が来てくれて嬉しいって言ってくれてるんでしょ?そんないきなり行かなくなったりしたらそっちの方が心配するよ。』
真希はこう言ってくれてるけど、正直もう行けないと思う。他意がなかったにしろ、私は彼の触れてはいけない一面に触れてしまったと思う。
今日は「ミシュラン」には行かないで帰ろう。
仕事帰り、スーパーで食材を買って帰る事にした。
そこで私は不運なのか、幸運なのか、彼と出くわす。
『あ、吉田さん。あなたもお買い物ですか。』
「あっ…。はい、新藤さんも、料理の食材を買い出しに?」
『えぇ、そうなのですが…やはりこの辺りには良い食材はあまりありませんね。やっぱり産地から直接発注した方が美味しいものが出来ます。』
「あの…こないだはいきなり失礼な事を聞いてしまってすみませんでした…。」
『あぁ、それで帰ってしまわれたんですか。とんでもない、全然気にしていませんでしたよ。』
新藤はくしゃっとした顔で微笑んだ。
『どうですか、今日はもう店も閉めましたので何か美味しいものでもご馳走しましょうか。あまり大したものは出来ませんが。』
「………。はい…ご一緒します。」
罪悪感が消えた訳ではなかったが、彼の誘いを断る理由もないので、私は彼の家へ同行した。
「あ、お店の上にご自宅があるんですね。」
『えぇ、店に何かあった時の為にも離れる訳にはいきませんから。』
彼の自宅は、何と言うか、閑散としていた。
調理器具も一通り揃っていて、本当に料理に気を遣っているのが一目でわかった。
『どうぞ好きな所におかけください。コートも適当な所にかけて頂いて結構です。』
「ふふ、新藤さん、自宅でしょ?私に気遣わなくたって構わないのに。」
『これは、失礼を…。』
「ほら、また!うふふ。」
『あっ、ははは。難しいもんですなぁ。』
初めて彼が大笑いする所を見た。すごく新鮮で、楽しかった。
【BGM おかえり...絢香】
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