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「ごめん、ごめん。偶然、先を歩いているのが見えたものだから」
「最初に声をかけろよ」
「無茶言うな。遥香の姿見つけて、傘もささず走って来たんだぞ。声なんか出るかよ」
「あー……そう……」
曖昧に相づちをうって改めて修平の格好を眺めた。
制服の肩は濡れ、髪は雫をこぼし始めている。
それを防ぐ肝心の傘は修平の腕にかけられており、その腕の先でわし掴みにされている布製の鞄は、見事なほど水気を含んでいた。
多分、その鞄でさえ傘代わりにして走って来なかったのだろう。
馬鹿だなあ、と嬉しさのにじむ笑顔で遥香は修平に向き直った。
地元じゃあ味わえないものだ。
そんな遥香をよそに、修平は腕にかけていた傘を勢いよく開く。
今さら意味なんて無いんじゃないか、とからかい気味に声をかければ、うるせえと舌打ちが返ってきた。
「そういえば……今日の六時間目って確か委員会決めだよな」
「え、そうだっけ」
「先生の話聞いてろよ。『入学から一ヶ月たったのでやります』って、昨日言っていただろうが」
そう言われても……と遥香は頭の中でぼやく。
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