序曲(オーバーチュア)

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   六時間目。  予想は出来ていたが、体育委員はクラス中の男子で取り合いになった。  よほどその美人だという委員長は有名らしい。  その知名度に感心はしながらも、遥香は教室のすみで静かに男子たちの言い争いを眺めていた。  数分前、修平が遥香に言ったのだ。 「おれに任せろ! 絶対、二人とも体育委員にしてみせるぜ」  修平の異様なまでの気合いの入れ方に苦笑いをしたが、おとなしく修平が勝ってくるのを待つことに同意した。  その様子からして、自分が混じっても場違いになることは分かっているようだ。  遥香にとって体育委員の席は、他のやつらのように本気で奪い合うほどのものではない。  ふと、修平の叫び声か聞こえた気がして顔をあげる。  顔をあげた先にはちょうど、机に立ち天に向かって吠える修平の姿があった。 「よっしゃあああ!」  何が起こったかなんてすぐに分かる。  体育委員になった。そういうことだろう。  遥香はこちらに向けてピースをする修平に片手をあげて答えた。
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