序曲(オーバーチュア)

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  「ばか! 苗字で呼んだって反応してくれねえよ。名前、名前」 「あ、そっか。いけない、忘れてた。――遥香っ!」 「……何?」  やっとのことで歩を止め、声の主たちに振り返る。 「おれたちも体育委員なんだ。知っていると思うけど、おれ、木下(きのした)。よろしく」 「おれは渡辺(わたなべ)。“ワタ”って呼んでくれ」  一人に続き、もう一人も名乗りをあげた。  黒髪にがっしりとした体つき。木下は標準より少しばかり背が低いが、並んで立つ二人は運動をしているだろうことが一目で分かる。 「……体育委員って四人もいるわけ?」 「ああ。なんでも、力仕事ばかりだから人手が必要らしいんだ。聞くところによっちゃあ、体育委員の三役以外は全員男みたいだぜ。むさ苦しいよな」 「ワタ……だったっけ。 お前も修平と同じで委員長狙いなのか?」 「やめろよ。アイツと一緒にしないでくれ。おれは顔より性格派なんだ。体育委員になったのは木下の連れってだけでだよ」  そう言って渡辺は横にいる木下を親指でさした。 「じゃあ、なに、木下が委員長狙いなんだ」  呆れるように視線を投げかければ、木下は冗談じゃない、とでも言うように勢いよく首を振った。 「確かに美人は好きだけど、おれなんて相手にしてもらえないよ」 「それなら、何で体育委員に?」  遥香が尋ねると木下は少し嬉しそうに目を細めた。
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