序曲(オーバーチュア)

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   これが木下の言っていた副委員長……?  遥香はゴクリとのどを鳴らした。  本能が彼女に畏怖しているのか、無意識に両腕で体を包んでいた。  額には冷や汗が浮かぶ。  ―ふいに、教室が静まりかえった。  それは部屋の引き戸が開かれた直後のこと。  談笑をしていた委員が戸の方を一斉にふり返り、止まった。  異様な空気にじゃれ合っていた修平と渡辺、なだめていた木下も動きを止める。遥香も腕をゆっくりとおろした。  遥香たち四人以外は全員座っていたので、彼らにはよく見えた。  一体、誰が入室してきたのかが。  黒い長い髪を流れるようになびかせ、踊るように歩を進める女――それは紛れもなく“美人”。  誰もが分かる体育委員長、その人だった。  遥香は修平があれだけ騒ぐ気持ちを少しだが理解したのと同時に、彼女が“美人”と言われるわけも分かった気がした。  他に言い表しようがないのだ。  「可愛い」も「綺麗」も彼女には足りない言葉。  彼女はもっと洗練されている。もっと真っ直ぐに貫いている。  身につけているのは“美”のみ。  委員長はするりと教壇まで行き、教壇の下に置いてある椅子に腰かけた。   持っていたファイルに静かに目を落とす。  一言もしゃべらない。ただ、美しいシルエットをこの場に残しただけ。
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