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「お疲れじゃないよ……。わたしに全部持たせやがって。配るのは手伝ってよね」
「えー」
「『えー』じゃないっ! 委員長でしょうが! ほら、とりあえず会を始める。プリントの仕分けはやっておくから。おーい、久美ちゃん」
「はいっ!」
その声に遥香は目を見開いた。
元気よく返事をした“久美ちゃん”という人は、先ほど見つけた眼鏡の女だったのだ。
遥香の後ろでは、突如現れた久美という女を穴があくほど見つめる男三人がいる。
「このプリント、種類があってね」
「はい」
説明を受け、楽しそうに返事をする久美は全くの別人だった。
眼鏡ごしの目は常に笑みを絶やさず、さっきの恐怖が嘘のようである。
信じられない……。
遥香は腕をもう一度抱えた。今度は少し茶色がかった女に向かって。
「佳奈子さん……」
遥香の後ろでは木下が小さくつぶやいた。
小さく、はかなく。
それはどこか安心を含んでいる、優しい声。
誰かに届いたかどうかもわからないほどの音。
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