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パタンっと扉を後ろ手に閉め、俺は凝り固まった緊張をほぐすように深く息を吐いた。
目の前にあるのは脱衣所の洗面台の鏡と、それに写る「あかり」。
そう、俺は女になり、また彼女も女なのだ。
男として彼女と体を重ねたことはあれど、女としてしたことはない。
もちろん、それは世間一般的に考えれば当たり前のことなのだが。
『じゃ、ベッドの上で待ってるね』
俺が風呂場に向かう最中に言われた言葉だ。
そんなことを妖艶な笑みで言われれば、俺が男だったなら即行で風呂場に向かったことだろう。
または体を洗うことも忘れてベッドに押し倒したかもしれない。
だが、今の俺は「あかり」という女なのだ。
嫌という気持ちはないが、こればっかりは初めての経験なので緊張せざるを得ない。
少しの待望と、多くの不安の気持ちをその小さな胸に抱えながら、俺は脱衣所の中央へと歩いた。
もちろん、今身にまとう衣服を脱ぐためだ。
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