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私はフリーランスのジャーナリストとして、裏世界で暗躍する秘密組織について調べている。
そこで再三申し込み、ある御仁の取材に成功した。
氏は4人のボディガードを伴って、私の前に現れた。
上等なスーツに、上等なエナメルの靴、そして純白のシルクの手袋。
個室へと移動して挨拶を交わし、お互いが席に着くと、氏はテーブルの上で両手をきっちりと組んだ。
私にはその両手の手袋が、氏の身分を告げている様に思えた。
氏はかつての旧チェコスロバキア秘密警察の要人で、今や裏世界を牛耳る者の一人である。
氏の名前は…
氏の名前を公開する事は、即ち私の身の危険を示している。
いくら氏が偽名を用いていようとも…
氏は一見柔和な表情を浮かべてインタビューに答えているが、目の奥に冷たい光を宿している事を、私は見逃さなかった。
何故、氏は次々と情報を提供するのか…
それが何を意味しているのか、私は気付き始めていた。
重苦しい空気の中、次第に緊張が高まっていく…
私は今更ながらに、この取材を設定した事を後悔していた…
まさに踏み込んではいけない領域に、私は足を踏み入れたのだ。
恐らく、生きて帰る事は叶うまい…
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