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「ねえ、お兄ちゃん、聞いてよ」
降りしきる雨の中で傘もささずに少年が話しかけてきた
「どうしたんだい?」
正直なところ俺は早く仕事を終わらせてしまいたかったのだが、こういう時は話を聞いてやったほうがしつこくつきまとわれることもなく案外簡単に退いてくれたりするもんだ
「この前すごく良いことをしたんだよ」
そう言いながら俺に笑いかけてきた少年。その笑顔は天使のようだった
「そうか。あのな、お兄ちゃんは用事があるんだ。そこをどいてくれないか?」
俺は少年の頭を撫でながら笑顔を返して言った
しかし少年は退こうとしない
俺の仕事は夜、しかも時間通りにやらなければならない仕事だ
少年に対して怒りがこみ上げてくる。右手に持った黒い鞄をギュッと握り締めた
「そんなに怒らないでよ。すぐ終わるからさ。ね?」
俺の心の中が見えるかのように少年は言った。
さすがに小学生くらいの少年に手荒な真似はできない。そのうえすぐに終わると言うんだから仕方ない
俺は少年と同じ目線になるようにしゃがみこんで「続けてくれ」と言った
少年は嬉しそうな顔をして話し始めた
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