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また夢を見ていた。
高校の頃にはいじめはまったくなくなっていた。
みんな恋愛、バイトに夢中になり他人に構っているほど暇じゃなくなったんだろう。
かといって私の心の傷も全く消えるわけがないが。
人気のない体育館に響くスパイクの音。
汗を流しひたすら自主練習していた成澤。
私は運動神経ゼロ、リズム感ゼロなのに唯一体育館で練習できる運動部より楽なダンス部を選んだ。
体育館ではステージや二階で練習が多かったのでよく成澤を眺めていたっけ。
とっても格好よかった。悔しいけど私は成澤が好きだった。
私をかばい深い傷を負ってまで助けてくれたのは偶然なんかじゃないと思ってる。
そんなふうに思ってるのは私だけかな?
とても薫りのいいコーヒーと焼きたてのこうばしいパンの匂いで目が覚める。
まわりを見渡すとそこは私の部屋じゃなかった。
「起きた?ちょうど朝ご飯できたから食べませんか?」
キッチンには成澤がいた。私は状況が理解できない。
「ちょっ…どういうこと!あのクソガ…じゃなかった菜々ちゃんは?それに奥さんがいるのに私なんか泊めてどうかしてるんじゃないの?」
成澤は私の態度に吹き出した。
すごい笑顔。
はじめてみたかも。
「菜々子は幼稚園休みだから僕の母がみてますよ。妻はいません」
あまりにサラッと言うものだから私は聞き返す。
「えっ子供がいて奥さんがいないっておかしくない?奥さん出かけてるの?」
「そうじゃなくて妻とは4年も前に離婚してます。娘は僕が引き取ったんですよ」
「ていうことはシングルパパってこと?」
私の問いに成澤は頷いた。あまりに驚いて私は絶句した。
「冷めちゃうから食べましょう」
まさか成澤の家で朝ご飯を食べるなんて夢にも思わなかった。
ブーブーブー。
私の携帯がなりだす。
私は携帯を手に取るがその相手を確認すると携帯をまたカバンに戻す。
「でなくていいんですか?親が心配してるのかもしれませんよ」
「それはありえないから」
「どーして?」
「いいでしょ。ほうっておいて」
うわっすごい感じ悪い言い方しちゃった。
「食べおわったら送ります」
成澤は気にする様子もなく淡々といった。
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