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会社を辞める時、わたしはどうしてもそのことを章広には言い出せずにいた。 理由は分からなかったが、ただ“場所”を失うことが、ひどくわたしを不安にさせた。 上司へ退職願を提出した夜、ベッドの中で意識を失う間際、「辞めることにした」と一言だけわたしは告げた。 章広は何も言わなかった。 随分後になって一度だけ辞めた理由を訊ねられたことがあったが、わたしはしばらく考え込み、結局「なんとなく」とだけ返した。
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