418人が本棚に入れています
本棚に追加
会社を辞める時、わたしはどうしてもそのことを章広には言い出せずにいた。
理由は分からなかったが、ただ“場所”を失うことが、ひどくわたしを不安にさせた。
上司へ退職願を提出した夜、ベッドの中で意識を失う間際、「辞めることにした」と一言だけわたしは告げた。
章広は何も言わなかった。
随分後になって一度だけ辞めた理由を訊ねられたことがあったが、わたしはしばらく考え込み、結局「なんとなく」とだけ返した。
最初のコメントを投稿しよう!