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朝、目が覚めると、ベッドのとなりで恋人が花になっていた。 一輪の花。 その根元は鋭利な刃物で綺麗に切り揃えられたかのように、恋人は形の整った一輪の切花になっていた。 ぽっかりと空いてしまったベッドの左半分は、まだ恋人が人だった時の輪郭をわずかに残していた。 わたしはその上にそっと左手を添えてみた。 そこには、薄っすらと恋人の温度が漂っていた。   あぁ、ついに花になってしまったのね。 わたしは、来るべき時が来てしまったのだと、静かにその悲しみを胸の奥にある決められた場所へと沈めた。 それは虚しさにも、儚さにもよく似た、悲しみだった。 深い、悲しみだった。
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