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しばし通を歩いた後、酒場を見つけ店内に入る。
中では真昼間から酒を浴びる鉱夫や賭け事に没頭する者たちで溢れていた。
込み合う中を掻き分けて、奥のカウンターに手頃な席を取るライズ。そして厨房に佇む者へ注文を出した。
「マスター、軽い奴を一杯」
「おっ! 久しぶりだなライズ=フォーゲル!! GPの調子はどうだい?」
そこに居たのはがたいの良い大男だ。歳は四十代程でシミのこびりついたエプロンを腰に付け、口元には無精髭を生やしている。
軽快な声をあげ、懐かしむようにライズを見下ろした。
「フルネームで呼ばないで下さい……。仕事の方はまずまずです。さっきも成り行きながら商人の護衛してきましたし」
「ははっ! 悪かったなぁ! 口にださんと忘れちまうんもんでね。噂が聞こえないもんだからてっきり死んじまったかと思ってたぜ」
「……俺も随分甘くみられたものですね」
注文された酒を渡しながら嬉しそうにマスターは言った。
それとは引き替えに、ライズは若干むすりとしながら返答している。
マスターはライズにとっての恩人のような者であり、敬意の念を抱いた数少ない者でもある。
実際、彼が敬語を扱う相手はほとんどいないのだが。
「ねぇライズ、“GP”ってなんだっけ?」
二人が談笑に華を咲かせている横で、不意にカーティスが割り込んできた。
急に話を途切れさせたというのに、竜の顔に罪悪感など全くないようである。
「前にも話したと思ったが?」
過去にも似たような事があったのだろう。またかとばかりに子竜を見返した。
白を切りつつも変わらぬ視線を向けられ、渋々ライズは口を開いた。
「……“General Practitioner”。ようするになんでも屋だ。庭先の草むしりから魔物退治までその依頼の層は幅広い」
「さっきやったっていう護衛もその任の一関だな。クライアントとGPがお互いに承諾すれば契約成立! 依頼を熟せばそれに応じた報酬が払われるって寸法だ。
勿論、己の身に余る仕事を引き受けて死んだ奴らも多いみたいだぜ」
俺も若い頃は無茶したもんだ、と何やらマスターは思い出に更けっているようだ。
「あれっ? マスターもGPやってたの?」
「おうよ! まぁそれも昔の話……。今はしがない酒場の店長さ」
にたりと冷めた笑みを浮かべグラスを拭くマスター。
その手前でしがないねぇ、とぼそりと零し、ライズはちびちび酒をすすっていた。
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