鉱山の街 オーレ

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その頃二人は止まらぬ勢いに乗せられ、酒場の中央では決闘が始まっていた。 剣と槍が交わる度に周りからは盛大な歓声が挙がっている。     「いい加減負けを認めなさいよ?!」     「そう簡単にやられるわけにはいかん。大体、これだけ戦えるのなら鉱山にもいけるだろう……!」     鍔ぜり合いになり、そのままの状態で睨み合う二人。 話しながら戦うなど随分器用なものだ。     「あー、もう……めんどくさい!   “大いなる風よ! 我が槍に集い その鋭き刃で肢肉を引き裂け!!”」     「ッ?! 魔法か! 少しは周りを省みろ……」     狭い店内にも関わらず距離を置き、頭上にて槍を振り回すセフィラ。 その横で悲鳴を上げ、避難する野次馬たち。回りの迷惑はお構いなしだ。   発動直前の魔法に眉をひそめ、ライズは呆れ混じりの溜息を一つ漏らした。     「――致し方ない。   “凍てつく大地の地神よ。 我が剣に敵を屠る刃を与え賜え”」   「うわぁっ! ライズまで何してるの?!」     途中から様子を眺めていたカーティスが驚きの声を上げる。叫んでいるのは竜だけではないのだが。   セフィラを風が、ライズを冷気がそれぞれ包んでいく。   二人とも詠唱により高まった集中力で魔法を形成し、狙いも定まった。後は放つだけである。     「喰らいなさい! アリメ――」 「行け、フロス――」     「い、い、加、減、に……しねぇかてめえらぁッッ!!!!」       突如、耳を劈(つんざ)くような怒号が酒場に響く。   肩を撥ねさせ寸でのところで停まる二人。怒鳴った人物は勿論、この酒場のマスターだ。 「あぁ? てめぇら人の店で何かましてやがる……? そんなに斬り合してぇんなら俺に掛かってこいや――……」     「……」 「……」 酷く低いドスの効いた声。 普段の顔からは想像出来ぬ程の気迫に圧倒され二人は思わずすごむ。 マスターの一喝により周りの野次馬も引き攣った顔のまま、いそいそと元の席へ戻っている。 因みにこれは余談だが、マスターは“オーレの鬼人”と称されたことがあるとかないとか。 そんなことを思いつつ、大人しく武器を収める二人だが、襟元を掴まれ、為す術もなく酒場の奥へと引きずられて行くのだった。
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