欲しかったのは、

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「十四郎、大好きだよ」 「……知ってる」 何時ものやり取り、何回も繰り返されてきた私達の日常。これから先もずっと続くはずの日常。 「ねぇ、十四郎は?」 「ん、……」 貴方は優しいキスや暖かい抱擁で誤魔化して、何時も肝心なところは言ってくれなかったよね? 「もう、何ではぐらかすの?」 軽く拗ねて尋ねると貴方は私を抱き締めながら、決まってこう言うの 「男はここぞというときにしかそうゆう言葉は言わねェもんだ」 少しくさいけど照れながら言う貴方が可愛くて、私はこの台詞が大好きだった。 何時までも交わされるはずだったこの会話、日常。 なんでかなぁ?続くはずだったのに……壊れちゃったよ 天人と幕府高官の密輸入の現場に1人で乗り込んだ貴方は何時までたっても帰って来なかった。 近藤さん達と協力してやっと見付けたのは、冷たくなった貴方の脱け殻と、固く握られた拳からしわくちゃになった一枚の紙切れ。 そんな貴方を見た私達の気持ちが判る?十四郎…… 私は絶望したよ。だって、 もう大好きだった台詞を言ってくれないあの唇 もう私を抱き締めてはくれないあの逞しい両腕 もう優しく頭を撫でてくれないあの大きな両手 もう嗅げない貴方から香るあのタバコの匂い達 全部無くなっちゃった。私の前から消えちゃったんだもん。 最後に残ったのは一枚の紙切れ。 私宛に『愛してる』一言だけ綴られた不器用な貴方からの生涯初めてのラブレター ねぇ、どうしてかな?あんなに欲しかった言葉なのに全然嬉しくないや…… くれなかった時には満たされていた心が、貰えた今は満たされない あぁ、そっか 置いてかれてやっと分かったよ。私が心から欲していたのは…… 本当に欲しかったのは、 貴方と過ごす平凡な日常。 ねぇ、十四郎。 そっちに行っても許してくれる?    But End?
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