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【新校舎廊下(12時50分)】
「めーんーどーくーせー!」
昼休みになり、教室から出た途端に悠が嘆くような声を出した。面倒くさい、という言葉を伸ばしながら、そのアクセントが音階のように徐々に上がっていく。
「なに叫んでんだぁ?」
相変わらずの間延びした声で、B組の教室から出てきた淳が二人の元へと歩み寄る。
「悠が亀ちゃんから放課後の呼び出しをくらったんだよ」
淳の問いに答えたのは熊次郎。それを聞いた淳は「それならいつものことじゃねえかぁ」と言って白い歯を見せた。
「いつものこと、じゃねえよ。今日は早く帰って新刊の小説を読破するつもりだったのに……。──くそー、亀ちゃんめ。結婚も出来なくて放課後も時間が有り余ってるからって、俺で暇潰ししようとしてるんだ、きっと」
と、悠が愚痴を吐く。反省の色など全く無い。
悠や熊次郎が“亀ちゃん”と呼ぶのは、D組の担任である亀井有紀──三十三歳、独身──に他ならない。生徒達の間では“亀ちゃん”と呼ばれるが、名前とは裏腹にはきはきとものを言う性格。悠にとって天敵の一人。
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