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熊次郎は自分の世界に入り込む悠を一蹴して、学校へと向かう足を早めた。
「ちょっと待てって、まだ話は始まってすらねえっての!」
「永久に始まらないでくれよ」
「おい、熊! お前、ミステリーを馬鹿にしてるのか!」
悠は眉間に皺を寄せて横へ並んだ。そんな悠に、熊次郎は「お前を馬鹿にしてんだよ」と吐き捨てる。
「結局は、ミステリーが好きってことを言いたいだけだろ?」
「そうだ! 分かってんじゃねえか」
悠は満足したような笑みを浮かべた。そんな彼の手には、しっかりと推理小説が握られている。
「俺はお前の趣味に付き合う気にはなれねえな」
「なんだよ! 頑固熊!」
口を尖らせる悠に、熊次郎はこれ以上言い争うこともせず、そこで話を切り上げた。それから暫く並んで歩き、悠が再び口を開く。
「そういえば昨日、お前、放課後どこにいた?」
悠の言葉に熊次郎が足を止めた。
「先に帰ってると思ったけど、下駄箱に靴入れたままだったし、なにしてたんだ?」
「別に関係ねえだろ」
悠の問いに冷たく答えて熊次郎は再び歩き出す。さすがに呆気にとられ、悠はぽつりと呟いた。
「なんだ、あの不機嫌熊は」
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