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一階と二階を結ぶ階段の踊り場に着いた時、「そういえばぁ」と、淳が間延びした声を出した。
中村淳にはスピーカーという別名がある。湖南高校一の情報通で口が軽い。全くもって迷惑な奴だ、と校内のほとんどの人間が思っている事を当の本人だけは知らない。
先程の“凸凹コンビ”というのも、淳が悠と熊次郎に初めて会った時から言い続けているもの。淳が話した言葉はすぐに学内に広まり、“凸凹コンビ”という名は二人の気付かぬ内に周知の名前となった。彼が言うには熊次郎が凸、悠が凹らしい。
「そういえばぁ」というのは、淳が仕入れた情報を話し出す時の口癖である。
「一年の太田ちゃんの話なんだけど……」
「やめろ、くだらねえ」
話し出した淳の言葉を遮って、熊次郎は二年D組の教室へと入っていった。
残された悠と淳はお互いの怪訝(けげん)な表情を確認しあい、
「どうしたんだ、今日はやけにノリが悪いなぁ」
「俺にも分かんねえ」
「熊のことで悠にも分からねえ時もあるんだなぁ」
珍しい、と呟いて、淳は熊次郎の後ろ姿を一瞥(いちべつ)した。
(8時30分)
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