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「先生、患者さんがお待ちです」
「ああ…今行くよ」
こちらに顔を覗かせた看護師さんに、片手を挙げて笑顔で応える。
「…忙しいですもんね。ごめんなさい、あたしもう行くね」
「茅陽ちゃん」
不満と不安と寂しさを噛み殺して、努めた笑顔を――幸人先生の、朗らかな笑顔が壊した。
そっと短く触れるだけの可愛い子供のキス。
「…いいの?ここ病院だけど」
「茅陽ちゃんが言いたいことくらい解るからね、僕は」
「別に…ちゅうして欲しいなんて言ってない…」
「あれ?違った?」
大人の余裕の笑みを浮かべてから、先生はあたしの髪をぽんぽんと優しく撫でた。
あたしは黙って寝台から降りて、靴を履いて――病室から出ていこうとする――その手前で、先生を振り返った。
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