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「う…………」
短く呻いてから、創は閉じていた目を開ける。
すると、自分が異様な状況に置かれていることに気付いた。
「どう、なってんだ……?」
正面に捉えるは高層ビルの屋上。眼下に広がるは忙しなく動き回る人、人、人。ほぼ真下の十字路には人だかりができている。
また、頭上にあるは、手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いた先刻の飛行機雲。
足は地に着いていない。
創は、浮いていた。
「あの、少しよろしいですか?」
そんな時、彼の背後から突如女性の澄んだ声が聞こえる。
「なっ!?」
創は突然のその声に驚き、素っ頓狂〈すっとんきょう〉な声を上げて振り返った。
「失礼。驚かせてしまいましたか。えーっと、貴方が坂本創様でしょうか」
声の主の女性は、創の顔色を窺うようにしずしずと彼の顔を覗き込んでいる。
肩にかかるほどの、深い茶色の髪。無駄な肉は一切ついていないようなスリムな輪郭。うっすらと鼻筋の通った鼻。
その容姿は日本人離れしていて、ハーフのような顔立ちをしている。
そして、彼女の瞳は左右で色が違った。
左は焦がすような紅。右は心を奪うような金。
「あ、あんたは誰なんだよ!?」
創にとって、目の前の女性は異様でしかない。
いきなり連れてこられたこの異様な場所に、いきなり現れた容姿端麗な女性。
思わず後ずさる。
「私はこういう者です」
彼女はそう言いながら中指と親指を重ね、鳴らす。
そうして何も無い空間から現れた一枚の紙を手に取ると、大股でずいと創との距離を詰めてそれを差し出した。
たじろぎながらも、その紙を受け取り、目を通す。
――見れば、それは名刺だ。
そしてその名刺には、
『非常勤務員 市斗麗〈いちとれい〉』
と書かれていた。
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