始まり

3/24
前へ
/930ページ
次へ
優しく瞬の頭を撫でた後オデコとオデコをくっつけて、 「瞬。幼稚園に行こうよ」 「…いや…いかない」 幼稚園と口にすると瞬は嫌がる。 「拓巳も一緒に行くから」 そう言っても、瞬は返事をしてくれない。 園を見学に行った際に、瞬はボロボロと涙を零していた。 入園してから一週間くらいは経っているのだが、毎朝いつもこんな調子のやり取りがある。 瞬の背中をポンポンと叩いて落ち着かせ、行くと言うまで根気よく待った。 「どうかな?まだ駄目かな?」 そう聞くと、瞬は俺の顔を見る事なく腕に力を込めてくる。 瞬が幼稚園に行きたがらないのも判らなくはない。 門の前で親と離れるのは寂しいものがあった。 自分も幼稚園に通ってた頃、母親と離されて泣いていた記憶がうっすらとある。 「…たくみ」 「うん?」 「…おちごと?」 「うん。お仕事だよ」 そう言うと瞬は俺の胸に顔をスリスリした後、 「…あの…いく」 「幼稚園に行くの?」 「…あい」 「よし。じゃ、ご飯食べようね」 瞬を抱っこしたままキッチンに向かう。 「…おりる」 「降りるの?」 「…あい」 それを聞いた俺は瞬を下に降ろした。
/930ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5786人が本棚に入れています
本棚に追加