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唯斗の声に振り返ると、片付けをしながらあたふたとしている。
「唯斗」
「すみません…」
俺が手を貸そうと近付こうとした時、スッと克季が横に立っていた。
落ちた書類を拾い上げて、克季はそっと片付ける。
「す、すみません…」
「いえ」
唯斗の片付けを終えると、カップを洗うため給湯室に向かって行った。
「何か唯斗可愛いね」
「そうだな」
唯斗があたふたしている姿は、誰も見た事がない。
記憶を失う前は、規則正しく落ち着いて行動していたからだ。
「なぎ」
「何だい?」
「おりる」
「降りるの?」
「あい」
薙に降ろされた瞬は、そのまま唯斗に向かって行く。
「ゆいと」
「はい」
瞬は何をする訳ではなく、ただ唯斗の傍に寄り添う。
そんな光景を、俺は微笑ましく見ていた。
「社長」
「うん?」
「終わりました」
「ご苦労様」
給湯室から出て来た克季に、薙はニコニコしながら、
「克季も一緒に行こうよ」
「いえ。パスします」
「つまんない」
そんな事はお構いなしに、克季は帰る準備を始める。
「社長」
「あぁ。終わっていいぞ」
そう言うと、克季は挨拶をして帰って行った。
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