5786人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬は先生の手は取らず、ただ立っている。
「じゃ、宜しくお願いします」
「はい。お預かりします」
挨拶をした俺は背中を向けている瞬に、
「瞬。後でお迎えに来るからな」
そう言うと、コクっと頷いた。
「瞬君。行きましょう」
瞬は無言のまま歩き出す。
俺はそんな瞬の後ろ姿を見送っていた。
(さて、俺も行くかな…)
瞬から預かったクマのぬいぐるみをバックに入れて俺が幼稚園に背中を向けると、
「…たくみ…あー…だ……み」
泣きながら瞬が俺の元へ走って来た。
「瞬」
屈んで瞬を受け止めると、大粒の涙を流しながら俺に抱き付いてくる。
「泣かないの。うん?」
そう言いながら涙を拭ってやると、
「…た…く…み」
「うん。よしよし」
幼稚園に来てから、毎日これを繰り返していた。
「ほらほら。クマさんに笑われちゃう。だから、もう泣かない」
瞬が落ち着くのを待って、
「瞬」
「……あい」
自分で涙を拭った瞬は俺から体を離す。
俺はバックから一回り小さなクマのぬいぐるみを取り出した。
それを瞬に預けると、顔を埋めて俺に背を向ける。
その姿は瞬の覚悟の表れだった。
最初のコメントを投稿しよう!