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まだ金がある家と決まってないのに、家を目前にして行の笑みは止まないでいた。
温和な日射しが行の額を汗ばまし、合間に吹く風がそれを乾かす。
幸いにも2階建てのこの家からは人気が感じられず、行の存在を知らす番犬もいない。
見た目、雰囲気、状況…
どれを取っても、まるで『泥棒さん、ぜひ入っちゃって』と言ってくるようだ。
行は、庭に入ろうと足を一歩進ませる。
同時に僅かながら脈打ちも速くなった。
そりゃ、そうだ。
“泥棒”という行為は初めてなのだから。
成り行きというか、金の欲しさの思いつきというか、それが引き金で今“泥棒”になろうとしている。
普通ならば、ここで辞めたりするだろうが、行はそれどころではない。
何故かと言えば、
行の脳内は『金』という文字で埋め尽くされていたから。
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