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四限目の国語が終わると同時に未來は立ち上がり、弁当片手に教室を去る。彼女が向かう先は、屋上。本来なら教室で食べなければならない。さらに、屋上には立ち入り禁止になっている。しかし、彼女は誰からも注意されなかった。屋上の鍵を持っていても注意されなかった。
彼女に対して不満を抱く生徒は少なくないだろうが、その不満を彼女にぶつける者はいない。「優等生」というだけで、教師はもちろん、生徒も何も口にしない。それが苦でもあったが、楽でもあった。
ドアノブに鍵を差し込みくるりと回すと、かちゃっと音がする。そして、鉄の重いドアを開けると眩い太陽の光が差し込み、暖かな春の風校内に吹き込んだ。
「気持ちいー!」
そう言って両手を伸ばすと、ドアの横に座る。落下防止のために設けられたフェンスの向こうに広がるのは寂しい街の姿。ちっぽけでどこにでもありそうな街だ。都会でなければ田舎でもない中途半端な街である。それを見ると、食欲が失せ少々萎えてしまうが、教室のざわめきよりはましだった。
弁当の包みを開け、箸をケースから出す途中でふと朝の会話を思い出す。
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