屋上にある未来

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『最近、自殺する奴多いよな』  朝、そう言った彼の姿と言葉が頭の中に叩きつけられる。大袈裟ではあるが、まるで新聞の一面にでかでかと掲げられた見出しのごとく、それは頭の中に浮かんだ。そして、その見出しと自身の思いとが交差する。  退屈な毎日。決められた道を歩く自身。変わらない日常に埋もれた「生」に対する渇望。それらが、沸々と押し寄せてくる。  気がつけばお弁当を下に置き、ふわりと立ち上がっていた。春風が体を包みこんでいるかのように、足が軽い。もう一つ例えを示すなら「体に羽が生えたようだ」だろう。 「私……」  足は進んでいく。未來の意思なんて関係ない。ただフェンスに向かって歩いていく。彼女を止めるかのように向かい風が吹き、彼女を包み込む春風を追っ払う。しかし、それでも彼女は止まらなかった。ひたすら、ただひたすらフェンスに向かって歩き続けた。  針金でできたフェンスの網目に、ぎゃしゃっという音共に両手の指を絡ませる。眼下に広がるの中庭。黄緑の若葉が視界の端に現れるがすぐ消える。 「私は死を渇望してるんだ」  深く吸い込んだ酸素を、短い言葉のために全て使い果たす。その短い言葉が、彼女の「望み」そのものであった。たった一文字の言葉。「死」の一文字。
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