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『森の奥にある狐の郵便屋さんを知っている?
とても優しい郵便屋さん。
毎日届く沢山の手紙を抱えて配りに行くのよ。
狐さんは所長兼配達員だから、いつもとっても大忙し。
山羊さんからのお手紙を受けとりに行ったら、山羊さんったら送らず食べてしまうし、狸さんから送られた手紙は、届ける前に葉っぱに変わってしまって、小鳥さんは自分で届けると駄々をこね、リスさんは手紙を頬袋にしまってしまうし、イタチさんはいつも手紙を渡そうとすると逃げ回って追いかけっこになってしまうのだって、それでいつも渡せないままなのだけど、その手紙の差出人は、イタチさんなんですって。
おかしいでしょ?
フクロウさんは狐さんに今日もグチグチうんちく話。
博識も結構だけどね、いつも肝心のお手紙を出しそびれて、ミミズクさんは呆れて首を傾げてるの。
そんな話をね、山猫さんから聞いたのだけど、この手紙はちゃんと貴方に届いたかしら?
私、狐さんに頼んだの、貴方が起きたら必ず届けてねって。
でも、この手紙を貴方が読む頃、私は居ないわ。
この森も、もうすぐ白い雪に覆われる。森のあちこちの木々で、冬の蓄えの木の実集めが始まってる。
皆、冬の準備に忙しそう。
貴方も冬の為これから忙しくなるわ。
けれど貴方はきっと、この冬支度にまた泣いてしまうのでしょうね…でも早くしないと皆なくなってしまう。
貴方はとても優しいから、それがとても心配です。
この間、私鹿さんに会って貴方の話をしたの。
そしたら、鹿さんは貴方のことを怖いって言ってた。
それで私が貴方の事が好きなんだと話たらね、変だって言われてしまったの。
でも、本当に好きなのだから仕方ないわ。
私貴方に何か出来る事はないかって、あれからずっと考えてたの。
その時鹿さんの言葉を聞いて一つだけ思い付いた。
その矢先、私と鹿さんの所へ狼さんがやって来たの。
狼さんは私達を見るなり大きな口を開け鋭い爪を立て、襲いかかって来た。
私は、必死に走って近くの穴に逃げ込んだから助かったけど、鹿さんは狼さんに捕まってしまったの…。
私、鹿さんとは仲が良かったけど、助けには行かれなかった…。
だって、行ったらきっと狼さんに食べられてしまう…。
それだけは絶対できなかった。
それは……。』
長い永い森の冬。
狐の郵便屋さんは、この渡す事の出来なかった、届けられなかった手紙を読んでいました。
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