狐の郵便屋さん

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『熊さん、熊さん。 兎さんからお手紙ですよ。』 熊さんは、真っ赤に染まった兎さんを抱いて、静かに覚める事のない眠りについていました。 キツツキさんが、木の幹の間から顔を覗かせ言います。 『秋の終わり、狼さんに襲われていた兎さんを熊さんが助けたんだ。 始め僕は熊さんが狼さんの獲物を横取りしてるんだと思った。 だって、熊さん…もうすぐ冬だって言うのに何も口にしてなかったから…。 でも違ってた。 熊さんは兎さんを食べる気なんてなかったんだ。 熊さんは一生懸命、兎さんを助けようとしていた。 だけど狼さんをやっと追い払った時には兎さんは、沢山怪我をしていて、ぐったりしていたんだ。 熊さんは兎さんを自分の家に連れて行って、傷を舐めてあげてた………最後までずっと助けようとしてたよ。 だけど…駄目だった。 熊さんは、堅く冷たくなった兎さんを抱き締めて、それから何日も何日も泣いてた。 それから、暫くすると雪が降り出し、冬がやってきた。 熊さんの家が雪で隠れてく頃、熊さんは寒さと飢えで眠るように死んだんだ。 兎さんを抱いたまま………。』 狐の郵便屋さんは、キツツキさんの話を聴いて、ポロリポロリと涙を零しながら、届けられなかった手紙を読みます。 『……熊さん、私に出来る事は一つしかない。 貴方が好きだから貴方に生きて欲しいの。 私も前は鹿さんのように貴方が怖かった。 でもそれは間違いだった。 貴方は人間に打たれて殺されそうになっていた私を助けてくれた。 …覚えていますか? 私はあの時、本当はあそこで死んでたはずだった。 貴方が助けてくれて私は救われたの。 だからね、今度は私が貴方の命を救う番。 私のこの命、熊さんに捧げます。 どうか、私を食べてください。 そして生きてください。 冬の前に貴方の家を尋ねます。 …ねぇ熊さん。ちゃんと食べてくれましたか? そして、生きて春を迎え、この手紙を読んでくれていますか? 私は貴方の中で生きられて、いつまでも一緒にいられて幸せです。 貴方は知らなかっただろうけど、あの日からずっと私は熊さんが好きでした。 これからもずっと大好きです。 ずっと…。』 熊さんへ、届けられなかった兎さんの手紙を握り締め、心優しい狐の郵便屋さんは泣きました。 その高い高い泣き声は、森を覆う木の幹を昇り、枝の間をすり抜け、熊さんと兎さんの想いより深い青い空へと、どこまでも高く響いていきました。
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