人生は夢である。死がそれを覚まさせてくれる。

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「ちーちゃぁん寝坊したー。今家の前のバス停ぃ」 初めて。付き合いだしてからではなく、出会ってから初めて遅刻した俺の恋人は、携帯電話越しに悲痛と称すに相応しい声を上げた。 「いいから、公共の場でンな声上げるな。ちゃんと駅で待ってっから」 呆れた声で言えば、電話の向こうからの声は更に壮悲感を増す。 「だってぇ、折角のデイ・オブ・千尋ちゃんの誕生日デート……」 「だからやめろって馬鹿」 さっき以上にやめろ。 俺は公共の場で、人前でいちゃこらするのが大嫌いだ。 電車の中でいちゃつくカップルに、いっそ殺意を覚えるくらいに。 「ねえ、千尋ちゃん」 俺の意思に気付いたのか……単純に飽きたのだろう、普段と変わらないトーンで言う。 なんだよ、と俺は続きを促す種類の相槌をうった。 「……ううん。やっぱやーめた。後でいーや。そろそろバス来るしーっと」 しかし続きは出ず、やや、普段よりもやや高いトーンで話を切り替える。
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