惚れてしまいました。

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そこには、女子生徒が独りでたたずんでいた。 …?……誰だ? 目が悪いので誰かわからない。 少し近づいてみる。 すると、いきなり突風が吹いた。 桜の花びらが舞い散る。 風になびく彼女の黒く長い髪。 数枚の花びらが吸い寄せられたように絡みつく。 彼女の意志のこもったような瞳からポロポロとこぼれ出る涙。 それを拭うことなくただ桜を見上げる彼女の姿は、強く、儚く、そしてそのどちらでもないような、何とも言い難い独特の雰囲気だ。 花びら達は彼女を慰めるように彼女の周りをくるくると舞い踊り、そっと涙で濡れた頬をかすめる。 桜の木が彼女を暖かく包み込むかのように優しく揺れる。 俺にはそれが、母親が子どもを見守っているかのように見えた。 泣いていた彼女はそんな桜の木を見て少し微笑んだ。 「…はなさき」 俺はそう呟いた瞬間彼女を抱き締めていた。
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