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「…………じゃあ、卵無くなっちゃったんで、次にいきますか」
「はい……」
一時間後、卵の絶滅により、兵器生産工事は崩壊した。
だが、兵器生産工事の爪痕はまだ残っており、俺達がいるすぐ横には、異臭を放ちながらキッチンを溶かしていく山積みにされたダークマターがあった。
「その前に会長。危険物処理班を呼んで下さい。このままではダークマター(卵焼き)が、この家に完全に侵食してしまいます」
「はい……」
会長はしゅんとなりながら、ポケットから携帯を取り出し、どこかへ電話した。
そして一分後には、防弾チョッキにヘルメットをした十数人の危険物処理班が到着し、軽症者五名、重症者二名という被害を出したが、5分後には無事、ダークマターは処理された。
「会長。今度から絶対卵焼きを作ろうなんて思わないで下さいね」
「はい……」
俺は、暗い雰囲気を放っている会長を尻目に、次の料理を作る為の準備に取り掛かった――
†
危険物処理班が帰ってから……
一体全体何時間が経過したんだろう……
あの後、俺は様々な料理を会長に教えた。
炒飯、野菜炒め、味噌汁、チンジャオロース、麻婆豆腐、ラーメン(インスタント)、ハンバーグ、焼き魚、天ぷら、もっと教えたと思うが、覚えていない。
だが、その全てがダークマターに変わったことは覚えている。
インスタントラーメンがダークマターに変わった時は、凄かったな……
「ひっく……ぐす……」
泣いてしまった。
会長は泣いてしまった。
当然といえば当然であろう。
なんせ、いくら頑張っても、インスタントラーメンすらもダークマターに変わってしまうんだから。
俺だって泣いちゃうよ。
「会長、ほら。まだ諦めちゃいけませんよ。俺が付いてますから、頑張りましょうよ。だから泣かないで下さい」
俺は、出来る限りの優しい笑顔で言った。
「もう……いいわよ……ぐすっ……私なんて……ぐすっ……才能無いのよ……ひっく……ごめんなさい……夕緋君が……ひっく……せっかく教えてくれてるのに」
会長は、溢れる涙を拭きながら、途切れ途切れで、涙声でそう言った。
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