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「ケイ!」
名前を呼ばれた少年が、驚いてこちらに歩み寄って来た。
「えっと……ごめん、思い出せないや……誰だっけ?」
「ケイ……ケイなんでしょ……?」
亜依の目から涙がこぼれ落ちる。
「いやっ、確かに俺は圭だけど、本当にごめん……君の事思い出せないんだけど……君誰?」
「僕は亜依、田中亜依っていうの、突然泣いたりしてごめんね。訳分かんないでしょ」
「エッ、いや、それは構わないけど大丈夫? ねぇ、もしよかったら、少し話しをしないか」
「うん、たぶん言っても信じてくれないと思うし、きっと頭がおかしいんじゃないかって思うかも……
でも、できれば聞いてほしいの、僕の話し」
亜依の目からまた涙がこぼれる。
「じゃあさぁ、この先の喫茶店に行こうか」
ケイは、そう言うと先に歩き出す。
亜依が裕子の墓の方を振り返ると、そこに裕子が立っていて、親指を立ててウインクをした。
(ちょっと裕子ー、下品だよ、でも、ありがとうね! 国体が終わったら、またみんなで報告に来るからね)
亜依は裕子に向かって、小さく手を振ってウインクをすると、背を向けてケイの後を追った。
すっかり季節は秋になって、毎年食欲の秋の亜依に、今年は初めての恋の予感がした。
了
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