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街道近くの山の中。
木々に隠れるようにして存在する、建物があった。
そこは盗賊のアジト。
大規模なその集団を王国軍が何度も捕らえようとしたが、全て失敗。
そして翌日にもまた王国軍が派遣されるはずのその場所に、闇夜に紛れて侵入した者がいた。
闇夜に溶ける深海を思わせる藍色の長い髪は高い位置で一つに結われ、時折吹く風と気ままに戯れ、同色の瞳は楽しげに細められている。
「侵入楽過ぎだし?」
静かな建物内部に侵入者の青年の愉しげな声が響く。
それは自殺行為にも近い。
盗賊と言えど、王国軍でさえ退かせる狂暴な集団に自身の存在を知らせるのだから。
しかも今は夜。
彼等の行動する時間帯だ。
「テメェ、何者だ!!」
案の定、数人の盗賊が部屋から姿を現し、それぞれが手にする武器を青年にむける。
「んー?俺のことー?」
「なめてんのかゴラァッ」
「えー?舐めたって不味そうだし?舐めるわけないし?気持ち悪いし?そんな趣味無いしー?」
「テメッ……」
ふざけているとしか言い様のない青年に、盗賊の米神に青筋が浮かび上がる。
いつしか青年はむさ苦しい盗賊達に囲まれていたが、青年は楽しそうに笑うだけ。
それが、盗賊達の癪に触ったようだ。
一斉に盗賊達が青年に飛び掛かった。
数で見れば数十対一。
明らかに盗賊達の方が有利である。
「ま、量より質ってな?」
青年が笑った。
直後、建物内部の気温が下がり、窓や壁に氷が生じる。
そして窓や壁、床や天井に飛び散った紅い液体。
充満する特有の臭い。
青年に飛び掛かった筈の盗賊達は例外無く床に倒れ、息絶えていた。
「ば、化け物……!!」
「そー?」
その身のどこにも紅い染みを付けていない青年がゆっくりと、生き残っている盗賊数名に近付く。
一瞬の惨殺劇に怯えた彼等は後退ることしか出来ない。
そして青年が再び笑い、盗賊達との距離を一瞬で詰めた。
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