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 そこは木々の合間に隠された、小さく古い教会みたいな場所だった。 「おい、セフィム」  来訪者は雨の中を突然やってきた。それに戸惑っているうちに、どんどん足を進めていく。 「全く、お前はあいかわらずへなちょこだな。王としての自覚を少しでも持ったらどうなんだ」  そしてこちらの反論も待たずに、いつものペースで話をしている彼が歩く後には、ぴちゃりぴちゃりと小さな水滴が落ちていく。びっしょりと濡れた彼の雨避けのフードから、次々と滴っているのだ。  乾いた石の床に濡れた足跡をつけながらも、彼の話は終わらなかった。それに合わせ、軍靴の踵が鳴らす足音がカツッカツッと、広い石造りの建物内に響き渡っていった。 「兄上が城に滞在されているから許されているんだぞ。本来なら、お前がこなさねばならない仕事が山積みなんだからな」 「だからさ、セフィム…」  建物の中を縦に二分するように、奥の祭壇を目指して細い通路が延びている。両脇には、規則的に配置された椅子が並んでいて乱れることもない。その合間を彼は慣れた足取りで進み、中程まで来たところでようやく立ち止まった。
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